写真は著名な、瑞巌寺の中門近くの松の木の枝に、まりのように丸くなって咲くセッコクです。
セッコクは和蘭の一種で、長生蘭とも呼ばれる多年草です。
岩手県近辺から、南は九州まで分布しています。
わが国では古来観賞植物として愛され、さかんに栽培されてきた歴史があります。
このため、姿かたちの異なるさまざまな品種がつくりだされました。
松島は、野生のセッコクが自生する地域としてはほぼ北限に位置しています。
漢方薬としても用いられることから、江戸時代には藩主伊達家への献上品としても用いられてきました。
多様な品種があるなかで、松島のセッコクは、白にピンクを乗せたような色合いのかわいらしい小ぶりな花が特徴です。セッコクの香りは淡いことが多いのですが、松島のセッコクは開花すると、甘い芳香を漂わせます。
葉の形が竹に似ていることから、松島周辺では「イワタケ」とも呼ばれていました。
セッコクは野草です。その愛らしい姿は、乱獲を招くこととなりました。
野生のセッコクはすっかり減ってしまい、種の存続が危ぶまれる状況となっています。
松島の町花を絶滅から救い、また全国の愛好家に応えるための試みが始まりました。
平成4年、松島町・農協などが研究施設を磯崎地区に設置します。
瑞巌寺のセッコクから採取した株を用いて、栽培・生産がスタートしました。
生産が軌道に乗りはじめたセッコクは「瑞巌寺セッコク」と名付けられ、販売が開始されます。
東日本大震災前には、瑞巌寺境内の売店や、パレス松洲でも販売されていました。
2011年3月11日。宮城県は東日本大震災に襲われます。
セッコクの研究施設には津波の被害はありませんでしたが、建物は地震によるダメージを受けました。
それでも震災後の2年間は操業していましたが、震災の被害が原因で火災が発生してしまいます。
旧松島第三小学校の校庭に仮設の施設をつくり、セッコクの種をつなぐ努力は続けられましたが、今度は雑菌の繁殖により失敗してしまいました。
新しい試み
2019年3月に、松島町に新しい培養施設が完成しました。
廃校により現在は地域交流センターとなっている施設の、プール更衣室を改修したものです。
改修費用には、NTTドコモグループ社員有志による「東北応援社員募金」からの寄付が充てられました。
セッコクは通常株分けによって栽培されますが、瑞巌寺セッコクは種から生育されます。
効率がいいこと、他の品種との交雑を避けることができることなどが、その理由です。
種から苗になるまでは、ポットの中につくった培地で育てられます(こちらの写真がその設備です)。
野草であるセッコクは本来強い植物なのですが、苗は培地が腐敗すると育つことができないため、雑菌は大敵です。
雑菌の繁殖を防ぐため、新しい施設には苗を無菌状態で培養する設備が設置されます。
苗が育てられるのは、こちらの写真の部屋です。
施設の準備はこれから。まず最初は消毒です。
操業開始後はもちろん立ち入りできませんので、これらの写真はすこし貴重かもしれません。
栽培担当の只木幸子さんは、育成の難しさもセッコクの魅力のひとつ、とおっしゃいます。
育った苗は、こちらのビニールハウスに移されます。このビニールハウスは、以前の施設より移設したもの。
花をつけるまで3年から5年、今度はこちらで育成されます。
只木さんは、もともと磯崎の農産物加工施設でお漬物やみそ、とうふなどをつくっていました。
隣接する研究施設でセッコク栽培のお手伝いをはじめて、今に至っています。
ビニールハウスのなかでは、何度も訪れた試練を生きのびた、貴重な株が育てられていました。
いまはわずかな数ですが、すべて瑞巌寺のセッコクの子孫です。
松島を訪れるみなさまに、楽しみにして待っていてほしい、と只木さん。
あと何年かお待ちいただければ、只木さんが新しく育てたセッコクを、きっとご覧になることができます。
2019年5月10日追記
2019年(令和元年)5月10日、こちらの施設でいちはやく咲いたセッコクの写真を、松島町に提供いただきました。
上の写真のビニールハウスで生育されているものです。
松島にお越しになるみなさまにごらんいただけるセッコクが咲くのは、まだもう少し先。
下に掲載した各スポットで、その姿をご賞玩いただけます。
このサイトのあちこちに顔を出すパレス松洲のキャラクター・八千代(やちよ)は、セッコクの精です。
東日本大震災から3年少しが経過した、2014年の夏に生まれました。
八千代は、松島を訪れるみなさまが大好きです。
いつも、みなさまにお会いできる日を心待ちにしています。