「日本遺産(Japan Heritage)」とは文化庁が認定する、「地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリー」
です。地域に受け継がれる文化財をひとつのテーマで結び合わせ、その魅力をパッケージ化して発信するもので、2015年以降全国で83件が認定されています。
日本遺産には特定の地域を対象としたものと、複数の地域をまたぐものの2種類があります。「政宗が育んだ"伊達"な文化」は2016年に認定された、仙台市・塩竈市・多賀城市、そして松島町に広がるストーリーです(宮城県ではこのほか、県内1市2町と岩手県の1市1町で構成される「みちのくGOLD浪漫―黄金の国ジパング,産金はじまりの地をたどる―」も認定されています)。
2020年4月末まで松島博物館を会場に、この日本遺産を紹介する企画展が開催されています(松島博物館については、こちらの紹介記事をご参照ください)。
松島博物館
松島博物館は、観瀾亭に隣接する小さなミュージアムです。観瀾亭の拝観券で、あわせて入場していただけます。
エントランスをくぐると最初に、日本遺産という取り組みについて説明するパネルが掲示されています。そこからホールを覗くと、今回の展示の様子が見えました。
ストーリーを構成する全51の文化財のうち10点が、松島町に所在するものです。
10年の歳月を要した「平成の大修理」を2018年に終えた国宝・瑞巌寺においても、建造物・所蔵物をあわせ、複数の文化財が日本遺産にピックアップされています。
今回の企画展ではパネルのほかにも、平成の大修理にあたって発掘された瑞巌寺の瓦の実物などの展示があります。
伊達政宗と松島
仙台藩を築いた武将・伊達政宗公は、また詩歌や能楽にも通じた文化人としても知られています。
「“伊達”な文化」とは伊達家の伝統に、政宗と同時代に花ひらいた桃山文化が加味され、さらに活発化した西洋との交流の影響を受けて発展した、仙台藩独自の文化を意味します。
政宗、そして伊達家にとって、松島は特別な場所でした。この松島博物館がある小高い丘にも、それを伝える由緒があります。
この丘のある、松島湾に張り出したちいさな岬は、かつて月見岬と呼ばれていました。藩主一族の休息所・迎賓館である「御仮屋」として整備され、いくつもの建物が立ち並んでいたと伝わっています(今回の企画展では、往時の月見岬を記した絵図も展示されています)。
観瀾亭は月の名所・松島で、藩主一行が月見を楽しむための建物です。
地名にも残されるほど、この場所が歴代の藩主に愛されていたことがわかります。
観瀾亭は、豊臣秀吉の伏見城にあった茶室を政宗が拝領して江戸の伊達屋敷に移築し、さらにそれを第2代仙台藩主 忠宗がこの場所に移したもの。
上方からみちのくへの、桃山文化伝播の象徴、ともいえるかもしれません。
松島のシンボルともいえる五大堂。平安時代初期の征夷大将軍・坂上田村麻呂が奥州征討の際に建立した毘沙門堂が、その起源といわれています。
現在の五大堂の建物は、瑞巌寺再建に先立って政宗が再建したもの。400年の歴史を持つ仏堂は東北最古の桃山様式建築といわれ、国の重要文化財に指定されています。
現在は瑞巌寺に所属していますが、拝観料は無料。ここからの松島の眺望がすてきなこともあって、いつも多くの方が立ち寄られています。
こじんまりとした企画展ですが、日本遺産にラインアップされている松島の文化財は、その大半が博物館から徒歩10分たらずの場所にあるもの。すぐに見て、接することができます。
この日本遺産が範囲とする3市1町は交通の便もよく、関心のあるスポットをつなぐ観光スケジュールを組むのも容易です。
松島を起点に、より広範に“伊達”な文化の空気感を感じ取ってほしい、とおっしゃるのは、今回の企画展のキュレーターである松島町教育委員会の泉田成美さん。そのなかから松島独自の魅力を見いだしてもらえれば、とのことでした。
歴史に想いをはせながら、散策しましょ!